2010.2.18(木)  S t o r y : 29

「きょうも、よろしくお願いします」

ユイは席にすわり、問題集をひろげた。仲本由香里をはさんだ
向こうには、もうひとり生徒がすわっている。

「きょうは、先週解けなかった問題の復習からいきましょう」

「はい。
あと、家でやってみてわからないところがあったので、
そこもお願いします」

ユイはAxisに通うようになってから、
家でも予習をするようになっていた。自分は何が得意で
何が苦手かわかってきてから、
勉強をする効率がよくなっていった。

「じゃあ、次はこの問題にいきましょう」

由香里の指導で問題集にとりくむ。
まわりにほかの生徒がいることも忘れて、ユイは集中して
問題を解くことができた。

「できました」

「そう。ちょっと見せて」

由香里が答えを確認する。そのとき、
なにげなく窓のほうに顔をふりむけたユイは、

「…あ、れ?」

 ちいさならくがきに目をとめて、たちまち
顔いっぱいに笑みをひろげた。

〈サッカーボールと 「がんばれ」の文字〉

だれが描いたものか、すぐにわかった。

「ユイちゃん、ほとんどできてるわよ。それと、ここはね…」

「あ、はい」

ユイはノートに目をもどし、由香里の補足説明を聞きながら、
おちつきなく喜んでいる。

「ありがとうございました」

個別指導がおわって授業ブースを出たユイは、
休憩と自習ができる部屋へと移った。
たまにここで復習をして、それから家に帰っていくのだ。

「ユイちゃん、おつかれさま。きょうも復習して帰るの?」

由香里が笑いかける。

「はい。家だとついついテレビを見たり、
       マンガとかに気をとられて集中できないから」

とユイも笑いかえす。

「そういえばユイちゃん、なにか悩み事でもあるの?」

「えっ、わたし、授業中ぼーっとしてましたか?」

ユイは、まっすぐ由香里を見かえした。

「そうじゃないけど、休憩時間とか、
        ひとりで考え事してるように見えたから」

「すごーい。わかるんですね」

 ユイは、びくりと肩を揺らした。

「ふふっ」と

目をほそめた由香里は大学生だけど、
       たまに今みたいな大人っぽい表情になる。

 机をはさんでユイとむきあった由香里に、

「じつはわたし…」と、

先日の准汰とのいきさつを話しはじめる。
学校の友だちでもなく、准汰の知り合いでもない
由香里だからこそ、ユイは気軽に相談できる気がした。

「…そう。ユイちゃんは、その子が好きなのね」

「その、好きというか、気になるっていうか…」

いきなりそう聞かれて、ユイはかえす言葉につまった。
耳まで赤くして顔をふせている。

「気になってる段階で、もう好きなのよ」

由香里が断言する。

(仲本さんって、大人だな…)

ユイはそう思った。

「でも、今までどおり楽しいだけじゃ、だめなのかな?」

自分に言ってるのか由香里に言ってるのか
           わからないみたいに、ユイがつぶやく。

「みんなで楽しく遊ぶときはなんでもないけど、二人だと、
               ぎこちなくなってしまうの?」

「そんなわけでもないけど…」

げんに宮島で、二人っきりで遊んだことがある。
でもあれは突発的だったし、ユイは心の準備をしていたわけじゃない。
今回は、それとは違う。面とむかって誘われると、
やっぱり意識してしまう。

「自分の気持ちが変わることを、怖がっちゃだめよ」

「変わる…」

 准汰への気持ちが、どう変わるのだろうか。

「二人きりで遊んでも、楽しいことがいっぱいあるはずよ。
     准汰くんって子も、きっと連絡を待ってると思うよ」

由香里は言って、あらためてユイに問いかけた。

「ユイちゃんは、どうしたいの?」

「わたしは… 会いたい」

「そう。じゃあその会いたいって気持ちに、
             素直になればいいのよ」

宮島で准汰とすごしたときは緊張したけど、別れぎわには、
なんだか名残惜しく思った。つぎはいつ遊べるかなと、
  心のどこかで楽しみにしていた。やっぱり准汰に会いたい。

「あ、そろそろ失礼するね」

        時計を見て、由香里は席を立った。

「話を聞いてもらって、ありがとうございました」

「いいえ。勉強も恋もがんばってね!」

由香里はみじかく笑って、つぎの学生との授業に向かった。

「よーし、やるぞ」

ユイはすっかり気分が晴れて、
        ひろげた問題集にとりくみはじめた。

自習をすませて外に出ると、ユイはガラス窓に
       ちいさなキャラクターをひとつ増やした。
そして、
   〈がんばれ!〉
        と書かれた言葉のとなりに、

               〈うん、〉と書き加えた。

                       

         つづく・・・・ (2月25日 更新予定)

                
原作  M・B
     S・K
     R・S

協力 比治山大学現代文化学部 

監修 吉本直志郎

 
(やまぎし ゆい) 16歳(高1)

広島市内の県立出澪(でみお)高校に通う女の子、クラブは軽音楽部。


(なつかわ じゅんた) 16歳(高1)

広島市内の中学校で山岸ユイと同じクラスだったが、サッカーに専念するためユイとは違う学校に進学。

2011 夏編
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35周年 秋編
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35周年 恋夜空編
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開局35周年記念スペシャル
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2010 冬編
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石井杏奈着うたPR
秋編(石井杏奈着うたPR)
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NATSUGOYA編
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♪「がんばるけん~」
 作詞:石井杏奈 & tetsuhiko
 作曲:tetsuhiko
 石井杏奈(いしいあんな)
 スターダスト音楽出版所属
 アクターズスクール広島9期生
 Birthday : 1994.02.12