2010.9.9(木)  S t o r y : 58

可愛いって、言ってほしかった。いっしょに花火を見たかった。

ぜんぶ自分のわがままだけど、わかっているけど、
一つも実現しなかったことが悔しくて、もどかしくて、
じわりと目に涙がたまってきた。

(子供みたい。ほんとヤダ)

泣くのは嫌だ。ユイは枕を顔に押しつけたまま、
             しばらくじっとしていた。

そのうち眠ってしまったらしく、
ベッドから上体を起こしたときには、辺りは暗くなっていた。

時計を見ると、もうすぐ花火が始まる時刻だ。

(花火……見るだけ見ようかな)

ユイはベッドをおりて、電気を点けずベランダに出た。
ここからは花火がよく見える。

はじめの一発を待っていると、携帯が鳴った。

着信をみる。准汰だ。

あわてぎみに通話ボタンを押して耳にあてる。

「もしもし!」

 とユイが勢いよく応じたので、准汰はひるんでいる。

そのあとハハハッと笑って、

『今いいかな?』

「わたしはいいけど、夏川くんは大丈夫?」

『薬のんでぐっすり寝たら、だいぶ楽になった。
                今日はほんとにごめん』

「ううん。夏川くんが元気になって良かった」

准汰の声を聞いて、沈んでいた気持ちがたちまち薄れていく。

かわりに嬉しさが胸いっぱいに広がっていく。

『山岸、いまどこにいるの?』

「わたしも家だよ。自分の部屋のベランダ」

『なんだ、花火大会に行かなかったの?』

「うん。ベッドに寝ころんでたら寝ちゃってて」

まさか、すねてたらそのまま眠ってしまったとは言えない。

   その時、最初の一発が空に上がった。
ぱあっと開いた火の花が、ユイの目に映る。

わずかに遅れて、綿で包んだような音が届いた。
つづけざまに色とりどりの花火が、空を輝かしいものにしていく。

「花火、始まったね」

『山岸ん家からも、花火見えるんだ』

「うん」

『俺もいま、家の縁側から花火見てるんだ』

いよいよ夜空は光にみちあふれ、賑やかさを増していく。

「花火、一緒に見れたね」

『電話だけどね』

准汰が申し訳なさそうに言う。だけどユイはそれでも良かった。

どんなカタチであれ、一緒に花火を見ていることが大切なのだ。

「きれいだね」

『うん。あ、いまのすごかったな!』

まばたきするのも惜しいくらい、七色の花が咲きつづける。

ユイと准汰は花火が終わるまで、いまの花火が良かったとか、

夏の屋台では何が食べたいとか、
     とりとめのない話をケータイで交わし合った。

 生ぬるい風にのって火薬の匂いが運ばれてきた。

准汰の声を聞きながら、ユイはひそかに決めた。

(今日のことはぜんぶ心の箱におさめておいて……おっと、
金魚の浴衣みたいに、どこにいったか忘れないようにしなきゃ)

                        
                           
                             

         つづく・・・・(9月16日 更新予定)

                
原作  清丘めぐみ
     小川 菜央
     田原麻衣子

協力 比治山大学現代文化学部 

監修 吉本直志郎

 
(やまぎし ゆい) 16歳(高1)

広島市内の県立出澪(でみお)高校に通う女の子、クラブは軽音楽部。


(なつかわ じゅんた) 16歳(高1)

広島市内の中学校で山岸ユイと同じクラスだったが、サッカーに専念するためユイとは違う学校に進学。

2011 夏編
2011 夏編
再生する
35周年 秋編
35周年 秋編
再生する
35周年 恋夜空編
35周年 恋夜空編
再生する
開局35周年記念スペシャル
開局35周年記念スペシャル
再生する
2010 冬編
2010 冬編
再生する
石井杏奈着うたPR
秋編(石井杏奈着うたPR)
再生する
NATSUGOYA編
NATSUGOYA編
再生する
♪「がんばるけん~」
 作詞:石井杏奈 & tetsuhiko
 作曲:tetsuhiko
 石井杏奈(いしいあんな)
 スターダスト音楽出版所属
 アクターズスクール広島9期生
 Birthday : 1994.02.12